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サンディエゴ 通信
02/11/22
日米のインフレ動向
写真提供元:by 中泉拓也
米国はインフレ懸念が激しいですが、日本はその気配がまだありません。なかなか専門家でも確実なことは言えないのですが、現在得られる情報から概要を紹介したいと思います。
コロナ禍の米国では2021年にインフレ率が5%を記録し、インフレ傾向になっています。最も一般的に言われているのは、物流の滞留が要因のコストプッシュインフレーションです。これはコロナ禍で運輸や港湾荷役の労働力の確保が難しいために生じているもので、現在はそれに原油価格の上昇が加わっています。私は昨年4月に帰国したのですが、3月にヨセミテに行き、サンフランシスコからサンタバーバラ経由でサン・ディエゴに戻ったのですが、サンタバーバラからLAに向かう途中、ロングビーチに入港できないコンテナ船の大量繋留を見て驚いたのですが、現在はなんとその時の倍以上の入港待ちのコンテナ船が繋留されています(注1)。
このような供給側の要因に加え、米国ではコロナ禍で耐久財の需要が増加したこともインフレの要因です。クリーブランド連銀のKristen Tauber氏の昨年の研究(注2)によると、コロナ禍で旅行や外食の需要ができなかった分、耐久財の購入に向かったこと、様々なコロナ関連の補助金で消費者の購買力が増加したことで、耐久財の需要が大きくなっていることが指摘されています。直近は耐久財価格の上昇もあって、やや抑制されてきていますが、足元でも依然として高い水準です。
以上、米国では燃料価格の高騰や物流のボトルネックによる供給側の要因に加え、このような耐久財需要の増加も物価上昇に寄与しています。つまり、コストプッシュとデマンドプル両方で物価上昇が起きているわけです。
それでは今後はどうなるでしょうか。また日本で物価上昇が抑えられている理由はなんでしょうか。それには以下の2つの要因が重要だと考えられます。第1には、日本では企業物価指数の上昇にもかかわらず、消費者物価が上昇していないことです。これは米国のような需要の増加が起きていないことを示しています。
2点目は10年程度のタイムスパンでみた日米の物価と生産性の変化の相違です。これが本稿で一番考えたいことですが、先ず物価について。カリフォルニアやNYCを中心にアメリカでは住宅価格がこの10年間恒常的に上昇しており、それに伴って家賃も上昇しています。上記の昨年3月のヨセミテ旅行でサンフランシスコに寄ったのですが、ピア(写真)の土産物屋さんの日系人の親父さんと仲良くなって話していたら、「もう30年以上住んでいてレントコントロールで家賃を低くしてもらっているので、なんとかなっているけれど、それがなければとても住めない」と言っていました。それに対して、日本ではむしろ家賃はこの10年間むしろ低下傾向でした。そのため、消費者物価の総合指数では米国は特にサービス価格を中心に上昇が続いていますが、日本はほとんど上昇していません。その大きな原因がサービスに含まれる家賃は、日本ではほぼ横ばいから低下傾向なのに対して、米国では上昇傾向であることです(注3)。
家賃の上昇に加え、米国ではコロナ禍でリモートワークが進展し、IT化が更に進むことによって、家賃の低い郊外への移動が進展することが考えられます。現在の耐久財需要の増加もこういった郊外移転が要因かもしれませんが、今後も継続する可能性が指摘できるわけです。
それに対して、日本では地価や家賃も横ばいのため、郊外への住宅の移動のインセンティブは米国ほど高くありません。また、米国に比べて、日本ではIT化が進んでおらず、コロナ後に米国のようなリモートの定着が進むかどうか不透明です。そのため、耐久財や住宅需要も大きくならない可能性が指摘できます。
そのため、FRBが今後アメリカでインフレを抑える必要があると考えた場合、そういった住宅需要を抑えるために、更なる利上げも予想されるわけです。それに対して、日本ではそういったデマンドプルの要因が依然として小さいでしょう。少なくとも黒田総裁はそのように考えているようです(注4)。むしろ日本で景気改善するためには、積極的にIT化を促進するような規制緩和や規制改革をするほうが重要になり、そういった改革で新たな需要を喚起することを期待したいです。
実際、渡米して最も感じたのは日本と比較して米国がこの10年で遥かに進歩したことす。様々な点で、10年前より米国生活は快適になりましたが、デジタル化については日本と圧倒的な差ができてしまった印象です。特に日本の初等教育や行政のデジタル化の遅れは明らかです。サンディエゴのUTCで住んでいましたが、現地の小学校では体育の先生までオンラインで授業を行なっていました。それに対して日本では相当進んでいるところでも、一定期間タブレットを導入しただけで、完全オンラインには程遠い状態です。保護者の提出物は、米国はすべてオンラインで出来ましたが、日本はすべて紙の書類での提出でした。本当に気の毒なのですが、副校長(教頭)先生が連休中に保護者の書類をすべてパソコンに打ち込むのだそうです。それなら最初からオンラインで提出したほうがはるかに効率的ですよね。
そもそも日本の場合、ハンコ文化も含め、すべて紙ベースで制度ができており、デジタル化に根本的なところで対応できていないことが課題です。なので、仮にオンラインで申請したとしても、受け付けた側はそれを再度プリントアウトして、書類で確認すると言ったことが行われています。ほんと本末転倒ですよね。昨年帰国した時も検査証明、誓約書、健康チェックなど4種類の書類とwebでの入力を要求され、書類のチェックは極めて念入りに行っていました。1枚につきなんと2回ほど。計12回はチェックし、全部のチェックや抗原検査を終えるために羽田空港のターミナル内を2Kmは歩かされました(信じられないかもしれないですが、本当です)。にもかかわらず、最も肝心なアプリのチェックは不十分で誤作動も多く、隔離による防疫という最も重要な目的の達成はできていなかったです(涙)。
現在デジタル庁も発足し、この2年間で様々な改革も行われていますので、ようやく遅ればせながらデジタル化も進められています。それについては、次回、入国関係やワクチンについての最新動向も含めて紹介したいと思います。
注1) 米西海岸でコンテナ船ラッシュ続く、入港待ち時間平均16.9日に延びる(Brendan Murray, 2021年11月15日) https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-11-15/R2L99NDWX2PS01
注2) Why Has Durable Goods Spending Been So Strong during the COVID-19 Pandemic?
https://www.clevelandfed.org/en/newsroom-and-events/publications/economic-commentary/2021-economic-commentaries/ec-202116-durable-goods-spending-during-covid19-pandemic.aspx
注3) 中村 英昭 「消費者物価でみる平成 -デフレの背景について考える 日米物価動向 」統計リサーチノート No.6 総務省統計研究所(2019年4月)
http://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/pdf/rn/2-rn-006.pdf
注4) 物価上昇「可能性極めて低い」 黒田日銀総裁インタビュー
https://news.yahoo.co.jp/articles/f83584534ede48db245aa9bec9c55b1119eebb35