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コラム Column

心のサプリメント

渡部典子

渡部典子

カテゴリー:文化・生活・ホビー
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区切り 1

自分の心が悲しさや苦しさで満ちている時、周りの人のやさしさに触れることで、立ち直るきっかけをつかめたということ、皆さんも経験されたことありますか。このような触れ合いは、しばしばどのような薬よりもあなたを勇気づけ、前に進む力を与えてくれます。ここでご紹介するデイジーにもそのような経験がありました。

エリックは妻のデイジーが最近元気が無いのを心の中でとても案じていました。インドネシア生まれのデイジーは物静かな性格で、つらいことがあってもあまり口に出しません。デイジーがエリックと結婚してサンディエゴに住むようになってから三年が経ち、表面的には平和な日々を送っていますし、自分との生活に満足しているように感じます。しかしふとした時に見せる空虚なまなざしや、寂しげな表情が、最近増えているように思われます。

デイジーはインドネシアの小さな海沿いの村で生まれました。村人の生活はとても貧しく、水道や電気の無い家もたくさんありました。早くに父親を亡くして、母親はデイジーを含んだ五人の子供や親戚を養う為に、必死で働いていました。長女のデイジーも学校に行きながら、近所の店で働いたり家事を手伝ったりする生活でした。デイジーが18歳の頃近所の若者と恋に落ち、息子のブディを生みました。その後恋人は離れていきましたが、ブディはデイジーの大家族の中ですくすく育っていきました。

それからしばらくして、デイジーは村から遠く離れたリゾート地のホテルで働くため家を出ました。ブディと離れるのはとても辛かったのですが、大家族を養う為にはこれが一番良いと決意したからです。ブディは村に残ってデイジーの母親や妹達がかわいがって育てていきました。デイジーがホテルで働き始めて2年経った頃の2004年12月26日、スマトラ島沖大地震が発生しその後の大津波でデイジーの故郷の村は全壊しました。村人も全員死亡、遺体も見つからないままデイジーは突然家族全員を失いました。

エリックとデイジーが出会ったのは、津波から数ヶ月経った頃でした。心やさしいデイジーを知るにつれて、エリックはデイジーをとても大切に思うようになり二人は結婚しました。仕事の都合で、エリックの母国アメリカ、カリフォルニア州のサンディエゴに移ってから、デイジーは空港の売店の仕事を見つけ、少しずつ友人も出来て生活は落ち着いてきました。しかし気づくと心にポッカリ穴の開いているような気持ちを、デイジーはどうすることも出来ませんでした。

デイジーの心の中には悲しい過去を乗り越えられないことに対する焦りや、やさしいエリックに対し自分が元気が無いことで申しわけないと思う気持ちが交錯します。そしてしばしば夢の中や、ふとした時に小さい頃のブディの顔が浮かびます。デイジーは自分が津波で親兄弟やブディを亡くしたことは以前エリックに話しましたが、それ以後悲しさやつらさを訴えたことは一度も有りませんでした。

次回に続く