San Diego Town

サンディエゴ
日本

サンディエゴタウンがゆく!

• サーバのメンテナンス作業に伴い、11月25日(月曜日) 午前7時から10分程度、本サイトへのアクセスができなくなります。ご迷惑をお掛け致しまして申し訳ありません。
• 2024年12月31日をもってTowns Walkerのサービスを終了します。ご愛顧いただきありがとうございました。

コラム Column

心のサプリメント

渡部典子

渡部典子

カテゴリー:文化・生活・ホビー
16885 West Bernardo Dr., #104, San Diego, CA 92127
TEL: (858)232-4521 / FAX: (858)485-0107

区切り 2

エリックはどうしたらデイジーの気持ちに変化を起こす助けになるだろうかと懸命に考えていました。デイジーが元気が無いのはきっと家族全員、特に幼い息子のブディを津波で亡くした経験からだという静かな確信がありました。しかしデイジーの心を思うと、励ますと言っても簡単にはいかないような気がします。二ヶ月程いろいろと考えをめぐらした結果、エリックはある計画を思いつきました。

ある週末、エリックが海を見に行こうとデイジーを誘いました。デイジーは朝から気持ちが重くあまり気乗りがしなかったのですが、海風に当るのも良いかも知れないと、重い腰を上げました。エリックがデイジーを連れて行ったのは、眼下に太平洋が広がる美しい公園でした。景色に見とれながら石畳の敷かれた小道を歩いていると、気分が少し安らいできます。ふと気付くと石畳にはいたるところに亡くなった人を追悼するための名前が刻まれています。すると先を歩いていたエリックがデイジーのほうを振り返り、「こっちに来てこれを見てごらん」と呼びました。

エリックが示している先の石碑に目をやると、「In Loving Memory, Budi Kaban, May 13, 1998 – Dec 26, 2004」と刻まれていました。それを見たときデイジーの心臓がドキンとして、心の穴がいっぺんに激しい感情で満たされていくのを感じました。いつも蓋をして見ないようにしていたものが、一気に噴き出したのです。それはブディや故郷を恋しく思う気持ちと、エリックの思いやりをありがたく思う気持ちの入り混じった、何とも複雑な感情の嵐でした。刻まれたブディの名前を指でなぞりながらデイジーは溢れる涙をぬぐおうともしませんでした。これでやっとブディを訪ねる場所が出来たと思いながら、その感情に浸ることを少し心地よく感じていました。この時からデイジーは少しずつブディの死を受け入れ、過去に区切りをつけて、前に進むことが出来るようになりました。

周りの人からの思いやりを受けることにより、時に人は硬く閉ざしてしまった心を解いて、前に進む力を感じることが出来るようになります。デイジーの場合も硬く閉ざしていた心が、エリックの思いやりある行為を受けて一気に開きました。エリックはデイジーの悲しさやむなしさを感じ取り、デイジーの心の癒しはどのようなことから得られるかを必死で思いめぐらし、ブディの石碑を公園に作ることを思いついたのです。

エリックがデイジーの気持ちを理解し、自分に何が出来るかを考えるために必要だったのは想像力です。私達は皆想像力を持って生まれてきます。特に子供の頃の私たちののびのびとした想像力には限界がありません。しかし成長と共にその想像力は少しずつ影をひそめてしまいます。それはなぜでしょう。それは大きくなるに従って、次第に自分の行動を見つめる目が出来てくるからです。すると自分を批判すると同時に、恥ずかしいという気持ちが湧いてきます。ことに親や周りの人から批判を受けながら育った人には、この傾向が顕著です。

しかしこの想像力を妨げる自己批判や恥ずかしいという気持ちを抑えて、他の人や自分を思いやることを意識的に行うことから、生活の中に前とは違った展開が起きてきます。エリックの行動はデイジーを元気づけただけではありません。デイジーを思いやるという行為を通して、二人の絆が深まり、エリックもまた人生のすばらしさや生きている意義を見出したのでした。