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コラム Column

日米の年金と国籍

海外年金相談センター 市川俊治

海外年金相談センター 市川俊治

カテゴリー:年金・保険

棚ぼた排除規定(WEP)

日本の年金受給者が米国年金の受給手続きをすると、米国年金の一部が、最大587ドル(2024年)毎月減額されることがあります。これはWEP(Windfall Elimination Provision)というSSA(社会保障庁)の規定に依るものです。


米国年金が減額されてしまうと老後の生活設計に大きな影響を受けることになります。

それだけにWEPについてよく理解したうえで不当な減額を受けた場合はSSAに適切にクレームをして正しい年金額を確保する必要があります。

WEPの制度は1983年頃に始まったものですが、それが日本の年金受給者にも適用になったのは日米社会保障協定が発効した2005年10月からと推察されます。

その当初からSSAは複雑な日本の年金制度をよく理解できず本来は厚生年金のうちの老齢厚生年金(老齢基礎年金は対象外)だけが減額の対象となるにも係わらず長きに亘り国民年金も減額の対象としてWEPを適用し続ける状況が続くこととなりました。

その間WEPの誤適用で減額された方からの悲痛な叫びを受けて取り組んだ“国民年金へのWEP誤適用解消”の是正活動が実りSSAから2022年7月”国民年金はWEPの適用対象外であることが認められました。

加えて過去に遡ってレビューが行われ、誤適用があったと判断された方には、WEPが適用された時点に遡って正しい年金額に是正されることとなりました。

長年取り組んできたWEP誤適用問題がこのように100%に近い形で解決出来き、日米で活躍される方々の老後の保障に少しでも寄与出来ることはこの上ない喜びです。

振り返れば、官民が一体となり日本の年金受給者の財産を守るために外国の規定を修正出来た事例は多くはないと思います。また今回の一連の修正が、特別立法でなくSSAからの通知一本で実現されたことにも驚いています。Fairnessを大切な規範とするアメリカのなせる業なのでしょうか。

さて是正が決定されてから2年が経過しましたがSSAの現場の対応は新しいルールに従って正しく運用されているでしょうか。その答えは残念ながら新規の申請の場合のみならず過去に遡った誤適用の是正措置でも依然として正しく対応されていないケースが散見されます。

その原因は米国年金受給者で日本の年金受給者数のウエートが少ないことから
SSオフィスの窓口担当者がルールを十分に理解していないことがあげられます。年金受給は生涯続きます。これからも日米両国からの年金の受給者数は増加されることが予想されます。皆さんがWEPのルールを正しく理解して対応することが大切です。以下WEPについて説明します。

 

1.減額の対象
減額対象は老齢厚生年金だけです。国民年金に加えて厚生年金のうち老齢基礎年金も対象外です。WEPの規定には「SSTaxを給与から源泉徴収しない雇用主のもとで勤務した場合(日本で働いていた場合はこれに該当します)、当該勤務から受給する年金受給額の一部に相当する額が米国年金から生涯減額されてしまうことがあります」と表現されています。日本の公的年金制度は、全国民が加入する基礎年金(1階部分=国民年金)と呼ばれる土台の上に老齢厚生年金(2階部分)が上乗せされています。厚生年金は1階部分の老齢基礎年金と2階部分の老齢厚生年金から構成されています。1階部分は居住に基づくものですから、勤労に基づく年金つまりWEPの対象となる年金は2階部分の老齢厚生年金だけです。


2. 減額の対象と国籍
WEPに該当する場合は、米国人、日本人のみならず全ての年金受給者が米国年金の減額の適用対象となります。

 


3.適用の例外
その主たるものは(1)国民年金Japan’s National Pension(1階部分 基礎年金/Basic Pension)(2)遺族年金受給者(3)SSTaxを社会保障上の高額所得(substantial earnings)レベルで30年以上支払った方は対象となりません。SSTaxは給与所得に応じて課せられる税金ですが、その給与所得には課税上一定限度のキャップが定められておりその額が社会保障上の高額所得です。2024年のSubstantial Earningsは31,275㌦です。 (4) 日米社会保障協定を活用した米国年金受給者(米国年金加入期間が40クレジット未満の場合)。

 


4.減額のプロセス
米国年金の受給申請手続きの為SSオフィスに連絡を取ると、窓口で「貴方は日本の年金を受給していますか」と質問され「はい」と答えると「年金額を証明するものを持ってくるよう」要請されます。
米国在住の受給者は日本年金機構から2か月おきに送られてくる「国民年金・厚生年金送金通知書」を証拠として提出します。通知書には基礎年金(Basic Pension)と厚生年金(Employee’s Pension)の2か月分の年金額が表示されています。①WEP適用対象は厚生年金欄の金額だけであり、基礎年金はWEP適用外であること②記載年金支給額は2か月分であることをSSA担当者に明確に伝えてください。日本在住の受給者は、「国民年金・厚生年金保険金額改定通知書」をご利用ください。

 

5.減額金額 
減額金額は毎年改定されます。2024年の最大減額金額は月額587ドルです。
一方、Social Security Act 第215条(a)(7)「保証方式」で減額はWEPの適用となる年金月額(老齢厚生年金月額)の半額以上とならないよう保証しています。つまり減額の金額は①減額の最高月額(2024年であれば587ドル)②老齢厚生年金月額の半分①、②のどちらか低い額となります。また、社会保障上の高額所得(substantial earnings)で20年以上加入された方は、30年に向けて限りなく減額0に向けて減額金額は低減してゆきます。

 

6.WEPの適用根拠
WEPの適用根拠をSSA(SS Administration)ではWEPの説明リーフレットで次のように説明しています。“社会保障給付金(SS benefits)は、労働者の退職前収入のある割合を代替(補完)することを意図しています。社会保障給付金の額は、低賃金の労働者のほうが高賃金の労働者よりも高い割合を得るように計算されており、例えば、低賃金の労働者は退職前の収入の約55%に等しい社会保障給付金を得ることができます。高賃金の労働者の平均代替率は約25%です。1983年までは、社会保障でカバーされていない仕事を主にしていた労働者は、長期の低賃金労働者であったものとして社会保障給付金が計算されました。彼らは、自分の収入に対して高い割合の社会保障給付金を受け取るのに加えて、社会保障税を支払わなかった仕事からの年金も受け取るという利点を享受していたのです。連邦議会はこの利点を排除するために、「棚ぼた排除規定」を成立させました。  

 

                                 
7.2022年7月WEP規定改定によりSSA内事務取扱ガイドライ(POMS)の見直し
日本の国民年金をWEPの適用除外と判断したことを踏まえて、POMSが改定されました。日本の老齢基礎年金がWEP適用対象外であることの根拠規定です。


① GN 01701.320  社会保障協定締結国におけるWEP適用の例外国とその該当年金制度が規定されており、Japan Japan's National PensionはWEPの適用外であることが明記されています。


② GN 00307.290 第3号被保険者(厚生年金加入者の配偶者。例えば会社員の妻の国民年金加入者)が受給する国民年金もWEP対象外であると明記されています。

③ GN 01745.020のA. Introduction の 1. National Pension(NP)にNP or “basic” benefits と明記されている為、Basic Pension=Japanese’s National Pension であることが証明できます。

 

8.WEPによる減額金額に不服の場合のアピール(不服申立て)方法
減額の確認方法: SSAから米国年金新規受給申請時に日本の年金の受給確認を受けた方は、受給申請前の受給予定額とSSAの年金額確定通知の受給額を比較して減額金額が正しいかどうかご確認ください。もし通知を受けた年金額が正しくないと思われた場合はアピールをして下さい。

アピールの期限:年金額確定通知の日付から65日(60日+郵送日5日)以内にForm SSA-561-U2でアピールを完了する必要があります。

このタイミングを逃すと、基本的に減額が生涯継続します。
詳しいアピール方法やSSAから“IMPORTANT-PLEASE READ CAREFULLY”というタイトルで手紙が届いた場合の対応等は私のホームページをご参照ください。